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最高裁判所第一小法廷 平成6年(し)153号 決定

主文

原決定を取り消す。

東京地方検察庁検察事務官が平成六年九月九日東京都中央区銀座○丁目○番○号S製紙本社ビルでした別紙(一)記載の各物件に対する差押処分及び同検察事務官が同日同区銀座○丁目○番○号S製紙Kビルでした別紙(二)記載の各物件に対する差押処分をいずれも取り消す。

理由

本件抗告の趣意は、違憲をいう点を含め、実質は単なる法令違反の主張であって、刑訴法四三三条の抗告理由に当たらない。

しかしながら、所論にかんがみ、職権により判断するに、原決定は、本件各捜索差押許可状の発付の経緯等に照らすと、本件各許可状には罪名に誤記があるが、そのかしの程度は小さく、本件各差押処分は、令状に基づくものであって、違法ではないとしたが、右判断は是認することができない。その理由は次のとおりである。

記録によれば、東京地方裁判所裁判官は、東京地方検察庁検察官から「アメリカ合衆国の要請に係る独占禁止法違反共助事件」について各捜索差押許可状の請求を受けたのに、アメリカ合衆国の要請に係る共助事件である旨を記載することなく、罪名として「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律違反被疑事件」と記載し、差し押さえるべき物として「本件に関係あると思料されるアルジョ・ウィギンズ・アプルトン社、アプルトン・ペーパーズ社及びその他関係会社、関係団体並びに関係機関との連絡文書」等と掲記した本件各許可状を発付し、同検察庁検察事務官は本件各許可状により右共助事件に関する本件各差押処分をしたことが認められる。本件各許可状は、その記載内容からすると、右共助事件について発付されたものとみることはできず、本件各許可状に基づき右共助事件に関してされた本件各差押処分が違法であることは明らかである。したがって、本件各差押処分が違法ではないとした原決定には決定に影響を及ぼすべき法令の違反があり、これを取り消されなければ著しく正義に反するものといわざるを得ない。

よって、刑訴法四一一条一号を準用し、同法四三四条、四二六条二項により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 小野幹雄 裁判官 大堀誠一 裁判官 三好達 裁判官 高橋久子)

別紙〈省略〉

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